マイソク(物件概要をまとめた1枚のチラシ)の作成は、不動産会社の業務のなかでも「毎回やるのに、毎回ちょっとずつ違う」典型です。1件あたり30分から1時間。物件が増える時期には、これが積み上がって夕方が丸ごと消えます。
しかも、作る人によって体裁が変わる。営業Aさんのマイソクと営業Bさんのマイソクで、写真の大きさも見出しの位置も違う。指摘して直してもらうと、今度は別の箇所が崩れる——この手戻りが、実は作成そのものより時間を食っています。
本記事では、この作業をAIで効率化する方法を解説します。ただし結論から言うと、ポイントは「AIにマイソクを作らせない」ことです。順を追って説明します。
なぜ「AIにマイソクを作って」ではうまくいかないのか
生成AIに物件情報を渡して「マイソクを作って」と頼むと、それらしいものは出てきます。ところが実務では使えません。理由はレイアウトが毎回変わるからです。
AIは同じ指示を出しても、毎回まったく同じ配置では出力しません。今日は写真が3枚並び、明日は2枚になる。見出しのサイズが微妙に違う。結局は人が整え直すことになり、手作業のときと時間が変わりません。
マイソクに求められているのは、独創的なデザインではなく「いつもの見た目であること」です。取引先の目に見慣れた体裁で、必要な項目が決まった場所にある。ここが崩れると、資料としての信頼性そのものが下がります。
だから正解は、デザインは固定して、中身だけを差し替えるという組み立てになります。AIには、その「中身」のうち人が考えると時間がかかる部分だけを任せます。
仕組みの作り方——3つのステップ
ステップ1:物件情報を1つの表にまとめる
まず、マイソクに載せる項目を洗い出して、Excelの1行=1物件という形に整理します。物件名、所在地、価格、面積、築年、最寄駅、駅徒歩、間取り、取引態様……といった具合です。
ここで大事なのは、列の名前と並び順を一度決めたら二度と変えないこと。自動化の仕組みは「この列に入っている値を、この場所に入れる」という対応で動くので、列が動くと全部やり直しになります。地味ですが、ここが仕組み全体の土台です。
すでにレインズや自社の管理システムからCSVで出せるなら、それをそのまま使えます。ゼロから入力し直す必要はありません。
ステップ2:テンプレートを1枚だけ、本気で作る
次に、完成形のマイソクを1枚だけ丁寧に作ります。写真の位置とサイズ、項目の並び、フォント、罫線、自社ロゴ。これが以降すべての物件の見た目になるので、ここには時間をかける価値があります。
作るのはあくまで「枠」です。物件名や価格が入る場所には、あとで自動的に置き換わる印(プレースホルダー)を置いておきます。写真も同様に、貼り込み位置と大きさだけを決めておきます。
ステップ3:表とテンプレートを機械的に結合する
あとは、ステップ1の表を1行ずつ読み込み、ステップ2のテンプレートに流し込んで書き出すだけです。物件写真はファイル名か番号で紐づけておけば、指定の枠に自動で収まります。
ここは人の判断が要らない作業なので、完全に機械に任せられます。物件が1件でも100件でも、実行するのは1回。出てくるマイソクは、当然ながら全部同じ体裁です。
型を「スキル」として登録すると、ひとことで呼び出せる
ここまでの3ステップを、毎回手順書を見ながらやるのは現実的ではありません。そこで効いてくるのが、Claude(クロード)の「スキル」という機能です。
スキルとは、ひとことで言えばAIに覚えさせておく自社専用の手順書です。「マイソクを作るときは、この表のこの列を使い、このテンプレートに流し込み、写真はこの順に並べ、紹介文はこういう方針で書く」——という一連の型を、一度だけ書いて登録しておきます。
すると次からは、「マイソク作って」と伝えてExcelと写真フォルダを渡すだけ。手順を毎回説明する必要も、長い指示文をどこかからコピーしてくる必要もありません。当社でもこの形で運用していて、出てくる資料は毎回まったく同じ体裁です。
スキルにしておくと何が便利なのか
「毎回の指示が短くなる」のは入口にすぎません。実務で効いてくるのは、次の4点です。
- 誰がやっても同じ結果になる——指示の書き方のうまい下手で品質が変わらなくなります。入社したばかりの人が呼び出しても、ベテランと同じ体裁のマイソクが出ます。ここが手作業との決定的な違いです
- 直すのは1か所だけ——体裁を変えたくなったら、スキルを1回直せば以降すべてに反映されます。「新しいフォーマットを全員に周知して徹底する」という、いちばん面倒な工程が消えます
- ベテランのやり方が会社の資産になる——「この物件タイプならここを推す」といった経験則を、頭の中ではなくスキルに書き写しておけます。属人化していたノウハウが、退職や異動で消えなくなります
- 他の業務にも横展開できる——一度スキルの作り方を覚えれば、対象はマイソクに限りません。提案書、契約書のチェック観点、問い合わせ返信、日報の要約——「毎回同じ手順でやっている仕事」はすべてスキルにできます
つまり、マイソクの自動化は入口です。本当の価値は「自社の業務の型をAIに覚えさせる」というやり方そのものを身につけることにあります。1つ作れるようになると、2つ目からは驚くほど早くなります。
AIが本当に効くのは「文章欄」
では、AIの出番はどこか。おすすめコメントや物件紹介文といった、書くのに頭を使う欄です。
ここは定型化しづらく、担当者が毎回ゼロから考えています。「駅近」「陽当たり良好」といった手垢のついた表現の繰り返しになりがちで、それでいて1件あたり10分15分と溶けていく。AIが最も貢献できるのは、まさにこういう箇所です。
使い方はシンプルで、物件情報の表の内容をそのまま渡し、誰に向けた資料なのかを指定して下書きを出させます。同じ物件でも、実需のファミリー向けと投資家向けでは、強調すべき点がまったく違うからです。
- ファミリー向け——学校区、周辺の生活利便施設、間取りの使い勝手
- 投資家向け——想定利回り、賃貸需要、管理状況、出口の想定
当社が支援してきた現場では、こうした提案資料の作成で60〜90%の時間削減が出ています。マイソクの文章欄も同じ性質の作業なので、削減の効き方は近いものになります。
運用前に決めておきたい3つの注意点
- 数値はAIに書かせない——価格、面積、築年、利回りといった数値は、必ず表の値をそのまま差し込みます。AIに文章の中で計算させたり書き起こさせたりすると、もっともらしい間違いが混ざります。数値は表から、文章はAIからと役割をはっきり分けてください
- 広告表示のチェックは人が行う——不動産の広告表示には法令・規約上のルールがあります。断定的な表現や、根拠のない優良誤認を招く言い回しが混ざっていないか、公開前に必ず社内の確認フローを通す設計にしてください。AIの出力をそのまま外に出す運用は避けます
- 写真と情報の取り扱いを確認する——他社物件の写真や資料をそのまま流用しないこと、また入力する情報に外部提供の制限がかかっていないかを、事前に社内で整理しておきます
※ 顧客情報や未公開の物件情報を外部サービスへ入力する際は、自社の情報管理ルールに従ってください。
まとめ:型を固めてから、AIを差し込む
マイソクの自動作成でうまくいく会社と、いかない会社の違いははっきりしています。いきなりAIに作らせようとするか、先に型を決めてからAIを部分的に使うかです。
手順としては、①項目を表に整理する ②テンプレートを1枚作る ③機械的に結合する、の3つ。AIを使うのは、その中の文章欄だけで十分に効果が出ます。そして何より、体裁が毎回そろうことによる手戻りの消滅が、時間短縮以上に効いてきます。
そして、固めた型はClaudeの「スキル」にして残してください。一度きりの効率化で終わらず、誰が使っても同じ品質が出る会社の仕組みに変わります。ここまで来ると、次はマイソク以外の業務も同じやり方で型にしたくなるはずです。その進め方を4時間で体系的に扱うのがClaude Code 集中講義です。
物件資料まわり以外にも着手できる業務はあります。全体像は不動産業のAI活用事例まとめに、仕入れ側の話は投資用不動産の仕入れ査定をAIで効率化する方法に整理していますので、あわせてご覧ください。