「議事録を書くのに、会議と同じくらい時間がかかる」「日報は金曜にまとめて書いている」——研修で困っている事務作業を挙げてもらうと、ほぼ必ず出てくる話です。
議事録・日報・報告書は、社内で毎日・毎週くり返し発生するので、AIの効果を実感しやすい分野です。一方で、AIに任せきりにすると、会議で決めていないことが「決定事項」として残るという落とし穴もあります。本記事では、その両面を、当社の実例をもとに整理します。
社内文書づくりで時間がかかるのは「まとめる」と「確かめる」
議事録や報告書を作る作業を分解すると、次の3つに分かれます。
- 集める:会議の発言、手元のメモ、現場の写真、数字の元データをそろえる
- まとめる:決まった型(見出しや項目)に沿って、要点を並べ直し、言い回しを整える
- 確かめる:抜けている項目、数字の食い違い、事実と違う書き方がないかを見る
重いのは2つ目と3つ目です。生成AIは、この「型に沿って並べ直す」作業が非常に得意です。逆に、「本当にそう決まったのか」は判断できません。会議の場にいたのは人だけだからです。
AIで作りやすい社内文書3つ
当社の社内業務と、研修で受講者の方と一緒に作っている教材から、AIで作りやすい文書を3つ挙げます。
1.議事録
会議の文字起こし(音声を文字に変換したもの)と手元のメモをAIに渡し、決まった型に整えさせます。当社では、メモアプリの録音・文字起こし機能で記録を残しつつ、自分でも要点をメモしています。
2.日報・週報
その日の殴り書きのメモ(音声入力のテキストでもかまいません)を、毎回同じ体裁の日報に清書させます。さらに、日報を1つのフォルダにためておけば、1週間分をまとめて読ませるだけで週報の下書きができます。
3.お客さま・取引先向けの報告書
社内の記録を元に、相手に合わせた報告文を作ります。社内向けの記録はそのままでは相手に伝わらないので、専門用語を言い換えたり、相手が知りたい順に並べ替えたりする作業をAIに任せます。
ここまでの3つの文書に共通する、AIと人の役割分担は次のとおりです。
AIが行う
- 文字起こしとメモを、決まった型に並べ直す
- 言い回しを整え、専門用語を言い換える
- 複数日の日報を読んで、週報の下書きにまとめる
- 記録の中の食い違いや、空欄の項目を指摘する
人が行う
- 決定事項・担当者・期限が正しいかを確認する
- AIが「要確認」とした項目を埋める
- 社外に出す文書を最後に読み、送る判断をする
- 型(見出しと項目)を決め、社内でそろえる
議事録をAIで作る5つの手順
手順1:録音と、自分のメモの両方を残す
オンライン会議ツールやメモアプリの録音・文字起こし機能、またはスマートフォンの録音を使います。ここで大事なのは、録音だけに頼らず、自分でも要点をメモしておくことです。文字起こしには聞き間違いが混ざりますが、「ここが決まった」という自分のメモがあれば、AIはそれを手がかりにまとめられます。なお、録音は参加者に伝えてから行い、社外の方がいる会議では了承を取ってください。
手順2:議事録の型を先に決める
AIに「議事録にして」とだけ頼むと、毎回違う形で出てきます。社内で次のような型を1つ決めて、毎回それを添えて頼みます。
基本情報
日時・参加者・会議名
決定事項
会議の場で全員が合意したことだけ
提案・検討中
出たけれど決まっていない案。誰の案かも書く
宿題
誰が・何を・いつまでに。担当や期限が出ていなければ「未定」と書く
次回
次の会議の日程と、持ち越した論点
ポイントは、「決定事項」と「提案・検討中」の欄を分けておくことです。理由は後の章で、当社の失敗例と一緒に説明します。
手順3:
「分からないところは空欄にして」と頼む
依頼文には、「文字起こしとメモから判断できない項目は、推測で埋めずに『要確認』と書いてください」と一文を添えます。AIは空欄を、それらしい内容で埋めようとするからです。空欄が見えていれば、人は埋められます。もっともらしい推測は、見落とされます。
手順4:決定事項・担当者・期限だけは、人が読み直す
AIが出した下書きを、会議に出ていた人が読みます。全文を細かく直す必要はありません。決定事項・担当者・期限の3点に絞って、実際の会議と合っているかを確認します。議事録が後で問題になるのは、ほとんどがこの3点だからです。
手順5:共有して、検索できる場所にためる
確認した議事録は、日付と会議名を題名に入れて社内の決まった場所に保存します。後から「前回何を約束したか」をすぐに引けます。記録を全員が引ける形にする考え方は、不動産会社の事例ですが社内ナレッジをAIで共有する方法でまとめています。
自社の会議や日報の流れのどこにAIを入れられそうか、業務の様子を伺いながら一緒に整理することもできます。
30分無料相談を見る →日報は「ためる」と週報・報告書に変わる
日報をAIで清書するだけでも、書く手間は減ります。ただ、本当に効いてくるのは、同じ型の日報がたまってからです。
日報5日分から週報を作る
研修では、月曜から金曜までの営業担当の日報5枚を1つのフォルダに入れ、AIに週報の下書きを作らせるワークショップを行っています。
この教材には、食い違いをあえて1つ仕込んでいます。金曜の日報の「今週のアポ数」の自己集計が、日別の記録を足した数と合わないのです。AIに「日別の数字を足し直して、日報の集計と合わないところがあれば注記して」と頼むと、AIはこのずれを見つけて週報に書き添えます。AIは「まとめる」だけでなく、「確かめる」の下準備にも使えます。
社内の記録から、相手向けの報告文を作る
建設会社向けの工事日報の教材では、現場監督のメモと写真から、社内用の日報と、施主さまにLINEで送れるご報告文を一度に作ります。「出面(その日に現場に入った職人の人数)」のような業界の言葉は、施主さま向けには言い換えます。同じ事実から、読む相手ごとに文書を作り分けるのは、AIの得意な作業です。
不動産管理会社の月次オーナー報告の教材でも、部屋番号の表記ゆれや一部の部屋の入金不足といったずれを、報告書にする前にAIに洗い出させます。経理をAIで効率化する方法では、AIの指摘を裏取りする考え方を紹介しています。
AIが議事録で犯しやすい3つの間違い
1.会議で出た「案」を「決定事項」として書く
当社で実際に起きたことです。社内の検討会議の記録をAIにまとめさせていたところ、ある日、タスク一覧を見直して「立てた覚えがない」タスクが10件並んでいることに気づきました。調べると、会議の中で出た提案が、議事録の上では「合意」「確定」として記録されていました。議事録の型に「決定事項」の欄しかなく、AIが出た話をすべてそこに入れていたのが原因です。
それ以来、当社の議事録では「提案」と「決定」を必ず別の欄に分けて書くようにし、タスクの一覧も議事録とは別に、決まったものだけを転記する運用に変えました。手順2で型の中に「提案・検討中」の欄を設けているのは、このためです。
2.聞き取れなかった部分を、もっともらしく補う
文字起こしが途切れたところを、AIは前後の流れから推測して埋めることがあります。自然に読めるので気づきにくく、手順3の一文はこれを防ぐためのものです。
3.数字の集計を、元の記録と照合せずに写す
合計や件数を、AIはそのまま転記したり、足し直して間違えたりします。数字は「元の記録から計算し直して、合わなければ注記して」と頼み、注記は人が元データで確かめます。
当社で決めている線引き
- 決定事項・担当者・期限は、会議に出た人が必ず読み直す:AIの下書きをそのまま配らない
- 「提案」と「決定」を別の欄に書かせる:決まったものだけをタスクとして転記する
- 録音は伝えてから、社外の方がいる会議は了承を得てから:入力してよい情報の範囲も先に決めておく
- 社外に出す報告書は、人が最後に読んで送る:AIに送信まではさせない
入力してよい情報の決め方と契約プランの選び方は、生成AIのセキュリティ対策でまとめています。
今週から始める3ステップ
新しいツールを契約する必要はありません。次の順で小さく始められます。
- 次の社内会議で、自分のメモをAIに整えさせる:録音がなくてもかまわない。手順2の型を添えて「この型で議事録にして。分からない項目は『要確認』と書いて」と頼む
- 今日の日報を、殴り書きのメモからAIに清書させる:毎回同じ型で出るように、日報の見出しを依頼文に入れておく
- 金曜に、1週間分の日報をまとめて読ませる:週報の下書きと、日報の中の食い違いを出してもらう
うまくいった依頼文と型は保存し、社内の誰でも同じ頼み方ができるようにします。この考え方は生成AIを社内に定着させる方法で詳しく扱っています。
まとめ:AIは清書係、確認は人
議事録・日報・報告書づくりで時間がかかっているのは、「書く」ことよりも、メモを型に沿って並べ直し、抜けや食い違いを確かめるところです。生成AIは、この並べ直しと下準備を肩代わりしてくれます。
ただし、会議で何が決まったかを知っているのは、その場にいた人だけです。「提案」と「決定」を分けて書かせ、分からないところは空欄にさせ、決定事項・担当者・期限は人が読み直す。この線引きを先に決めておけば、議事録係の負担を減らしながら、記録の正確さはむしろ上げられます。
今週できるのは、次の会議のメモを型に沿ってAIに整えさせることと、今日の日報を清書させてみることです。
社員の方が自分の業務でAIを使えるようになるための研修内容は、AI人材育成集中研修のページにまとめています。
よくあるご質問
会議を録音してAIに読ませるとき、参加者の了承は必要ですか?
社内の会議でも、録音することは最初に参加者へ伝えておくことをおすすめします。社外の方が参加する会議では、録音とAIでの文字起こしをしてよいか、冒頭で必ず確認してください。了承が得られない場合は、録音せずに手元のメモだけをAIに整えさせる方法でも、議事録の下書きは作れます。
議事録専用のAIツールを契約しないといけませんか?
必須ではありません。オンライン会議ツールやメモアプリに付いている録音・文字起こし機能や、スマートフォンの録音で文字起こしを用意し、それをChatGPT・Gemini・Claudeなどの標準的な生成AIに渡して整えさせる方法で十分始められます。専用ツールを検討するのは、議事録の型が社内で固まってからでも遅くありません。
AIが作った議事録は、そのまま参加者に配ってよいですか?
そのまま配るのはおすすめしません。AIは、会議で出た案を決定事項として書いたり、聞き取れなかった部分を推測で補ったりすることがあります。決定事項・担当者・期限の3点だけは、会議に出ていた人が必ず読み直してから共有してください。
日報をAIで書くと、手を抜いていると思われませんか?
AIに任せるのは清書と体裁の部分で、何をしたか・何が起きたかという中身は、本人のメモが元になります。むしろ書く手間が減ることで、毎日きちんと残る日報が増え、週報や上司への報告にも使える記録がたまっていきます。