オーナーへの管理受託の提案、投資家への収益物件の提案、地主への土地活用の提案。不動産の仕事は「提案書を出すところ」から始まります。ところが多くの会社で、その提案書は営業担当がひとりで、夜と週末に作っているのが実情ではないでしょうか。

1本作るのに半日。急ぎの案件が入ると、過去の似た提案書を開いて社名と数字を書き換える。結果、資料の体裁も説得力も担当者ごとにバラバラになる——。この記事では、生成AI(文章や資料の下書きを自動で作れるAI)を使って提案書の作成時間を60〜90%削減しながら、品質を人に依存させないための実務手順を、ChatGPTを例に解説します。

なぜ提案書作りは時間がかかるのか

提案書作成が重い理由を分解すると、実は「書く」時間はそれほど多くありません。時間を食っているのは、次の3つです。

提案書作りで時間を食っている3つと、型と材料を用意した後
時間を食っている工程何をしているか型と材料を用意した後
材料集め物件概要、周辺相場、収支の試算、過去の実績を、あちこちのファイルから拾い集める人が用意する(AIには任せない)
構成で迷うどの順番で話せば刺さるか、毎回ゼロから考えてしまうゼロになる(骨子を固定するため)
言い換え同じ内容を、相手(オーナー・投資家・地主)に合わせて書き直す数分になる

ここで多くの人がやってしまうのが、ChatGPTに「〇〇マンションの管理受託の提案書を作って」と丸投げすることです。これはほぼ確実に失敗します。材料を渡していないので数字が想像で埋められ、構成も指定していないので毎回違う体裁の文章が出てくるからです。使えない資料が出てきて「AIは実務では無理だ」と結論づける——これが一番もったいないパターンです。

正しい順番は逆です。骨子と材料を人が用意し、書く作業だけをAIに任せる。この分担にすると、上の3つのうち「構成で迷う」がゼロになり、「言い換え」が数分になります。

提案書をAIで作る4ステップ

1

勝ちパターンの提案書を1本選び、骨子を抜き出す

過去に受注できた提案書を1本開き、見出しだけを箇条書きに書き出す。作業は30分もかからない。

人が決める

2

AIに渡す「材料シート」を決める

物件情報・顧客情報・数字・自社の実績を一覧にする。数字と事実は必ず人が用意する。

人が用意する

3

指示文(プロンプト)を型にする

役割・読み手・構成・材料・書き方を指定した型を保存しておく。以降は読み手と材料を差し替えるだけ。

人が型を作る

4

確認して、型を育てる

数字は材料と一致しているか、言い切りすぎていないか、失礼な表現はないか。修正点は指示文へ書き足す。

AIが下書き/人が確認

ステップ1:勝ちパターンの提案書を1本選び、骨子を抜き出す

まず、過去に受注できた提案書を1本選びます。新しく理想形を考える必要はありません。その1本を開いて、見出しだけを箇条書きに書き出します。たとえば管理受託の提案なら「現状の課題整理/当社が考える改善方針/具体的な運営プラン/想定される収支の変化/体制とスケジュール/お見積り」といった具合です。

この見出しの並びが、あなたの会社の「勝ちパターン」です。ここを毎回固定するだけで、担当者による構成のブレは消えます。作業時間は30分もかかりません。

ステップ2:AIに渡す「材料シート」を決める

次に、提案書1本を作るのに必要な情報を一覧にします。物件種別ごとに1枚あれば十分です。

  • 物件情報(所在・築年・構造・戸数・現況の稼働率など)
  • 顧客情報(誰に出すのか、その人の関心事・懸念点)
  • 数字(現状の収支、提案後の想定、根拠となった前提条件)
  • 自社の実績(近隣・同種の物件で実際にあった対応事例)

ポイントは、数字と事実は必ず人が用意することです。相場や利回りをAIに調べさせて、そのまま提案書に載せてはいけません。AIは「もっともらしい数字」を作ってしまうことがあり、提案書でそれをやると信用問題に直結します。AIの役割はあくまで、確定した材料を読みやすい文章に組み立てることです。

ステップ3:指示文(プロンプト)を型にする

プロンプトとは、AIへの指示文のことです。毎回ゼロから書くのではなく、次のような型を作ってテキストファイルに保存しておきます。

  • 役割の指定:「あなたは投資用不動産を扱う不動産会社の営業担当です」
  • 読み手の指定:「読み手は築25年の一棟マンションを所有する70代のオーナーです。相続と修繕費の増加を心配しています」
  • 構成の指定:ステップ1で抜き出した見出しをそのまま貼り付ける
  • 材料の貼り付け:ステップ2の情報をそのまま貼り付ける
  • 書き方の指定:「専門用語には短い注釈を入れる」「1見出しあたり400字程度」「断定を避け、根拠とセットで書く」

この型があれば、あとは読み手と材料の部分を差し替えるだけです。同じ物件の提案を、投資家向けと相続対策を気にするオーナー向けに書き分けるのも、指示文の2行を変えて再生成するだけで済みます。ここが一番効く場面で、従来なら書き直しに数時間かかっていた作業が数分になります。

ステップ4:確認して、型を育てる

出てきた下書きは必ず人が読みます。見るべきは3点だけです。「数字は渡した材料と一致しているか」「言い切りすぎていないか」「この顧客に対して失礼な表現はないか」。ここを確認して直せば、完成です。

そして修正した箇所は、次回のために指示文へ書き足します。「利回りは表面・実質を必ず区別して書く」「修繕履歴に触れるときは推測を書かない」——こうした一文が溜まっていくほど、AIの下書きは自社の書き方に近づき、修正の手間が減っていきます。提案書作りの改善が、資料ではなく指示文に蓄積されていくのがこの進め方の利点です。

実務で注意したい3つのこと

1つ目は、顧客情報の扱いです。オーナー名や物件所在地をAIに入力する前に、会社としての利用ルールを決めてください。法人向けプランの利用と、入力した内容をAIの学習に使わせない設定(オプトアウト)が基本です。「個人名は伏せて入力する」だけでも、社内の運用ははるかに安全になります。

2つ目は、数字と法令の確認です。税制、建築規制、相続に関わる記述は、AIの出力をそのまま使ってはいけません。提案書に載せる前に、税理士・司法書士など専門家の確認を取る前提で運用してください。

3つ目は、いきなり全社展開しないことです。まずは1人が1つの提案パターンで2〜3本作ってみる。そこで型が固まってから、他のメンバーに渡す。順番を逆にすると「使い方がわからない」という声だけが残り、結局元のやり方に戻ります。

なお、社員研修としてこの進め方を導入する場合、要件を満たせば国の助成制度(人材開発支援助成金など)の対象となり得ます。支給可否は労働局の審査により決定されるため、申請にあたっては社会保険労務士へご相談ください。詳しくは助成金を使ったAI研修の始め方でも整理しています。

まとめ:AIに書かせる前に、型と材料を決める

提案書のAI活用でうまくいく会社と、そうでない会社の差は、AIの性能でもプロンプトの巧みさでもありません。「勝ちパターンの骨子」と「渡す材料」を先に決めているかどうか、それだけです。

逆に言えば、この2つさえ用意すれば、明日からでも始められます。まずは過去の提案書を1本開いて、見出しを書き出すところから始めてみてください。所要30分の作業が、半日かかっていた提案書作りを大きく変える起点になります。

「自社の提案書でどこまでできるか」を具体的に見たい方は、月額伴走コンサルや研修の中で実際の資料を使って一緒に型を作っていますので、下記の無料相談をご利用ください。

提案書以外の業務も含めて、どこからAIを組み込むかを整理したい場合は、不動産会社向けAI導入支援のページをご覧ください。

よくあるご質問

ChatGPTに「◯◯マンションの管理受託の提案書を作って」と頼めばできますか?

これはほぼ確実に失敗します。材料を渡していないので数字が想像で埋められ、構成も指定していないので毎回違う体裁の文章が出てくるからです。骨子と材料を人が用意し、書く作業だけをAIに任せてください。

何から始めればいいですか?

過去に受注できた提案書を1本選び、見出しだけを箇条書きに書き出すところからです。新しく理想形を考える必要はありません。この見出しの並びが、あなたの会社の「勝ちパターン」です。ここを毎回固定するだけで、担当者による構成のブレは消えます。作業時間は30分もかかりません。

相場や利回りをAIに調べさせてもいいですか?

いけません。AIは「もっともらしい数字」を作ってしまうことがあり、提案書でそれをやると信用問題に直結します。数字と事実は必ず人が用意し、AIの役割は確定した材料を読みやすい文章に組み立てることに限定してください。

相手ごとの書き分けはできますか?

できます。指示文のうち読み手と材料の部分を差し替えるだけです。同じ物件の提案を、投資家向けと相続対策を気にするオーナー向けに書き分ける場合も、2行変えて再生成するだけで済みます。従来なら書き直しに数時間かかっていた作業が数分になります。

出てきた下書きは、何を見て確認すればいいですか?

見るべきは3点だけです。「数字は渡した材料と一致しているか」「言い切りすぎていないか」「この顧客に対して失礼な表現はないか」。ここを確認して直せば、完成です。

使うほど良くなりますか?

修正した箇所を、次回のために指示文へ書き足してください。「利回りは表面・実質を必ず区別して書く」「修繕履歴に触れるときは推測を書かない」——こうした一文が溜まっていくほど、AIの下書きは自社の書き方に近づき、修正の手間が減っていきます。改善が資料ではなく指示文に蓄積されるのが、この進め方の利点です。

税制や相続に関わる記述も任せられますか?

いけません。税制、建築規制、相続に関わる記述は、AIの出力をそのまま使わないでください。提案書に載せる前に、税理士・司法書士など専門家の確認を取る前提で運用してください。

いきなり全社に展開してよいですか?

避けてください。まずは1人が1つの提案パターンで2〜3本作ってみて、そこで型が固まってから他のメンバーに渡します。順番を逆にすると「使い方がわからない」という声だけが残り、結局元のやり方に戻ります。